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第1回「当たり前、当然」

今回の「訳せそうで訳せない日本語」は、「当たり前、当然」です。

日本語での「当たり前」、あなたなら英語でどのように表現しますか?

日本語での使用例

(1) 自分の技術が遅れている場合には、学校に入るということは当たり前のことです。

(2) 日米関係にアジア諸国の関心が寄せられるのは当然です。

(3) この報告は決してプロボカティプ(刺激的)ではなく、ごく当たり前のことが書いてある。

(4) それは当たり前のことだといって、ちっとも評価してくれない。

(5) 自由貿易だから大量の黒字が出ても当然だ。

(6) そんな状況では日本産業の空洞化が起きるのは当然だ。

訳例

(1) lt goes without saying that you go to school when you are behind in technology.

(2) lt is only natural that Asian countries are interested in the US-Japan relationship.

(3) This report is not provocative; it only states the obvious.

(4) They just take it for granted, and would not properly appreciate it.

(5) It is not surprising to have a big surplus in the free trade system.

(6) Hollowing-out of the Japanese industry is inevitable under such circumstances.

 

 

「当然」は「当前」とも書くから、「当たり前」と「当然」はまったく同じ意味と考えていいだろう。「ごく普通のこと」「あるべきこと」という意味でよく使われる。決して難しい表現ではないが、自然な英語にするには、コンテキストによって選ぶ言葉を工夫する必要がある。一つの日本語の表現にもいろいろなニュアンスがあり、従ってそれぞれ違った英語の言い方に訳し分ける必要があることがよく分かる。

用例(1)は、ソニ一の創始者で、私たち通訳者の良き理解者でもあった故盛田昭夫氏が技術協力について国際シンポジウムで行なったスピーチの一節である。上記の例の代わりに、"What you should do is to go to school."と言ってもいいだろう。「当たり前」という特定の表現にこだわるよりは、そのセンテンス全体の意味を考えてそれを英語で表現しようとするほうがいい。”It goes without saying that ~ “ という言い方は、しばしば使われるので、覚えておくとよい。

(2) の “natural” (あるいは “only natural”) と(5) の “not surprising” は日本語の形容詞に対し英語でも形容詞で表現しているという意味で、「当たり前(当然)」のもっとも典型的な訳といえるだろう。

用例(3)は、東京都知事の石原慎太郎さんの発言だが、この場合の「当たり前」は「わかり切ったこと」という意味で、英語のto state the obvious という表現がぴったりだ。 形容詞 (ここではobvious = 明らかな) に the がつくと「~なこと」という名詞になる。

用例(6)は、日本の給与水準が高くなったことの結果についてのある経済専門家のコメントである。”inevitable” は「不可避の」、「避けられない」という意味だが、(6)の「当然だ」という言い方にはピッタリの表現だと思う。

「当たり前、当然」表現色々

"apparent"

"expected"

"inevitable"

"logical"

"natural"

"not surprising"

"obvious"

"reasonable"

"a matter of course"

"it goes without saying..."

"to take...for granted"

 

次回の表現

次回の「訳せそうで訳せない日本語」は、「遠慮する」を取り上げます。 

 

※本記事は、2012年インターネット講座ブログで連載していたものを再構成しています。

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小松達也

サイマル・アカデミー創設者

1960年より日本生産性本部駐米通訳員を経て、1965年まで米国国務省言語課勤務。帰国後、サイマル・インターナショナルの設立に携わり、1987年より社長、1998年から2017年3月まで顧問を務める。わが国の同時通訳者の草分けとして、G8サミット、APEC、日米財界人会議など数多くの国際会議で活躍。2008年から2015年まで国際教養大学専門職大学院教授。
1980年にサイマル・アカデミーを設立、以来30年以上にわたり通訳者養成の第一人者として教鞭をとり続け、後進の育成に力を注いでいる。

インターネット講座『通訳のための英語表現法』

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