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第2回「遠慮する」

今回の「訳せそうで訳せない日本語」は、「遠慮する」です。

日本語での「遠慮する」、あなたなら英語でどのように表現しますか?

日本語での使用例

(1) むしろ遠慮したいと思います。

(2) 正しいと信じることをするのに遠慮することはない。

(3) 質問があれば遠慮なくお電話ください。

(4) 年をとった人が遠慮するのは当たり前です。

(5) 遠慮するなよ。

(6) 彼はいつも遠慮がちだ。

訳例

(1) I think I would rather not do it.

(2) You shouldn't hesitate to do what you believe is right.

(3) Please feel free to call me if you have any questions.

(4) It is expected that aged people behave with modesty.

(5) Don't hold back.

      Be aggressive.

      Help yourself.

(6) He is always reserved.

      He is always modest.

 

「遠慮する」という私たちがしばしば使う言葉も、シャイで自己主張が苦手な日本人らしい心情や態度を表すという意味で「日本的」な表現だ。それだけに、1対1で対応するぴったりした英語の表現は見つからない。またいろんな状況で使われるから、前後関係を見ることも大切だ。

アメリカから来た友人を囲んで数人で焼肉を食べていたとき、最後にやや大きめの肉片が残った。そうしたらだれかが、「あ、遠慮のかたまりだ」と言った。これを英語で何と言うかという議論になり、私は“The piece everybody wants to take, but dares not to."という訳を試みた。まったくの意訳だが、「遠慮のかたまり」を直訳的に訳そうとすると大変難しい。

そういうときは、意味を考えて思い切って意訳するのがよい。その際、反対の意味の言葉を選んで、それを否定するという手がある。この例でも、dare to…(思い切って…する)を否定する形をとっている。用例 (1) も “I would do ~” という積極性を表す表現を否定している。

用例 (2) のnot hesitate to... と用例 (3) のfeel free to...はともに「ためらわずに/遠慮なく ~ する」という意味でしばしば使われる。用例 (4) は雇用問題について、この就職難の時代に高齢者はあまり若い人の邪魔をすべきではない、という意味の微妙な発言である。”with modesty” は「つつましく、遠慮して」でありこの文のニュアンスにふさわしいと思う。

用例 (5) の”Help yourself”は「遠慮なくお召し上がりください」という場合に使う言い方だ。「遠慮する」というのは日本的な感情であり、英語にしにくい表現のひとつだと思う。基本的な「積極的でなく、少し身を引く」という意味をとらえれば、前後によっていくつかの具体的な英語の表現を思いつく。もっとも応用範囲の広い語句を選ぶとすると、用例 (5) のto hold backだろう。この表現を覚えておけば、「遠慮する」が出てきても、遠慮することなく英語で話すことができる。

「遠慮する」表現色々

“to decline”

“to hesitate”

“to hold back”

“to refrain from”

“rather not”

“modest”

“to behave with modesty”

“to maintain a reserved attitude”

 

次回の表現

次回の訳せそうで訳せない日本語は、「メドが立つ(つく)」です。

よく、ニュースなどで『月が変われば、法案成立にメドがつく見通しだ』 なんていう日本語を耳にしますが・・・、 あなたならどう訳しますか? 次回、お楽しみに!

 

※本記事は、2012年インターネット講座ブログで連載していたものを再構成しています。

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小松達也

サイマル・アカデミー創設者

1960年より日本生産性本部駐米通訳員を経て、1965年まで米国国務省言語課勤務。帰国後、サイマル・インターナショナルの設立に携わり、1987年より社長、1998年から2017年3月まで顧問を務める。わが国の同時通訳者の草分けとして、G8サミット、APEC、日米財界人会議など数多くの国際会議で活躍。2008年から2015年まで国際教養大学専門職大学院教授。
1980年にサイマル・アカデミーを設立、以来30年以上にわたり通訳者養成の第一人者として教鞭をとり続け、後進の育成に力を注いでいる。

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