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第37回「中途半端」

今回の「訳せそうで訳せない日本語」は、「中途半端」です。

さてこの言葉、あなたなら英語でどのように表現しますか?

日本語での使用例

(1) 坂があんまりきつかったので中途から引き返した。

(2) どんな仕事でも中途でやめてはいけない。

(3) 同じような大企業でより高い給料を払うような中途採用は非常に少ない。

 

(4) 中途半端な対策では、銀行の再生は難しい。

(5) 運動をどれくらい本気でする意志があるのか、中途半端なら手遅れです。

(6) 中途半端な気持ちなら、やめたほうがいい。

 

(7) 売れる車を作るのは、半端じゃありません。

(8) 彼の美術収集は半端じゃない。

(9) 今シーズンのホラー映画は半端じゃない。

訳例

(1) The slope was so steep, we turned back halfway.

(2) Whatever you do, you shouldn’t leave your work half done / by halves.

(3) There were very few mid-career hirings in an equally large firm which would pay him the higher salaries.

 

(4) It is difficult to revive banks with halfhearted measures.

(5) It depends upon how dedicated you are in carrying out the movement.  If you are only halfway dedicated, it' s too late.

(6) If you are not fully committed, you'd better not do it.

 

(7) You cannot make cars that sell with halfhearted efforts.

(8) His art collection is really something.

(9) This season's horror films aren't kid stuff.

 

「中途半端」というのは「中途」と「半端」という二つの言葉が合わさった表現だ。それに「な」がつけば形容詞として、「に」がつけば副詞的に使われる。「中途」は「道のなかば」、「途中」が本来の意味であり、それが意味拡張されて一般的な物事や行為についても使われるようになったものだ。したがって英語では文字通り halfway が最も自然な表現だろう。

そこで用例では、まず「中途」をつかった3例から始めよう。訳例 (1) はストレートに halfway, (2) では同じ意味の half done を使っている。 by halves といういい方もあるようだ。用例 (3) は日本の労働市場に関するアメリカ人のコンサルタントの発言からとったものだ。「中途採用」は mid-career hiring, 日本でも最近は増えているようだ。ところで「中途退学」は drop out(動詞)が普通。「中途退学者」は a dropout と一語になる。

(4) ~ (6) が「中途半端」の用例である。訳例 (4) では halfhearted が使われている。これもぴったりだと思う。これは日本の大手銀行が不良債権などで危機に陥った時のコメントだが、halfhearted measures はデフレなど他の経済危機に対する対策についても使える。訳例 (5) では halfway を副詞として使っている。訳例 (6) は halfway も halfhearted も使わず、意味を取って別の表現を選んでいる。内容的にも納得できると思う。

用例 (7) から (9) は、「半端」という形で使われるものを選んだ。「半端」は、もともとは「数量が足りないこと」、「はした」という意味で、英語としては odd, spare, extra, leftover などが当てはまるが、ここでは意味的に「中途半端」に近いものをピックアップした。用例 (7) はある自動車会社の人の発言である。用例 (4) と同じように halfhearted が使われている。用例 (8)、(9) はともにもともと英語のソースからとったものを、日本語に訳したものだ。だから英語の表現としては当然生き生きとしていて面白い。訳例 (8) の really something も “He is really something!”(彼は大したものだ)などとよく使われる。訳例 (9) は TlME 誌の映画欄で見つけた。kid stuff は文字通り「子どもだまし」なのだが、半ばばかにしたようなニュアンスでよく使われる。アメリカに住んでいた60年代に、no greasy kid stuff (子どもだましのべとべとしたものじゃない) という、男性用整髪科のコマーシャルがあったのをよく覚えている。ただし kid stuff は drug for beginners という意味で、「マリファナ」という意味もあるので要注意。

「中途半端」が本欄のテーマだったが、関連する「中途」、「半端」も取り上げることになってしまった。こうしてみてみると、この3つの語にはかなりのオーバーラップがあってはっきりとは分かれていないことがわかる。なんだか「中途半端」な気分だ。

「中途半端」表現色々

"by halves"

"half-baked"

"half done"

"half-hearted"

"halfway"

"lukewarm"

"midway"

"not fully committed"

"unenthusiastic"

 

次回の表現

次回の訳せそうで訳せない日本語は、「壁にぶつかる」です。

さてこの言葉、あなたならどう訳しますか?

 

 

※本記事は、2012年インターネット講座ブログで連載していたものを再構成しています。

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小松達也

サイマル・アカデミー創設者

1960年より日本生産性本部駐米通訳員を経て、1965年まで米国国務省言語課勤務。帰国後、サイマル・インターナショナルの設立に携わり、1987年より社長、1998年から2017年3月まで顧問を務める。わが国の同時通訳者の草分けとして、G8サミット、APEC、日米財界人会議など数多くの国際会議で活躍。2008年から2015年まで国際教養大学専門職大学院教授。
1980年にサイマル・アカデミーを設立、以来30年以上にわたり通訳者養成の第一人者として教鞭をとり続け、後進の育成に力を注いでいる。

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