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第23回「行きづまる」

今回の「訳せそうで訳せない日本語」は、「行きづまる」です。

よくテレビのニュースや新聞でも見かけることの多いのではないでしょうか。この言葉、あなたなら英語でどのように表現しますか?

日本語での使用例

(1) これまでうまくいっていた中央集権制度が、完全に行きづまった。

(2) 政府の福祉政策は完全に行きづまっているようだ。

(3) この行きづまった状況を打開するには解散しかない。

(4) 日朝間の話し合いは、拉致の問題で行きづまっている。

(5) 彼は事業に行きづまっているらしい。

(6) 資金不足で、計画はすっかり行きづまってしまった。

(7) 委員会での討議は行きづまっている。

訳例

(1) The system of centralization, which has functioned well so far, has come to a dead end.

(2) The government's welfare policies seem to be at a complete impasse.

(3) The only way out of this stalemate is to dissolve the diet.

(4) The talks between Japan and the North Korea have been deadlocked on the issue of abduction.

(5) I heard his business has stalled.

(6) The project has got completely bogged down due to a lack of funds.

(7) The deliberation in the committee is going nowhere.

 

この言葉も元は道路の行きづまりからきているから、やはり一種のメタファー (metaphor) である。道路の行きづまり(あるいは「行き止まり」)はフランス語からきた cul-de-sac(袋小路)という語もあるが一番普通なのは dead end だろう。したがって「行きづまる」という動詞形は訳例 (1) のように to come to a dead end が使いやすい。訳例 (4) では動詞形で使われているが deadlock もほぼ同じである。ただし dead end は2語、deadlock は1語だから注意。

訳例 (2) の impasse もフランス語からきた言葉だが意味は dead end, deadlock と同じだ。英英辞典を見ると position from which progress is impossible とある。まさに「行きづまり」だ。逆に「(行きづまりを)打開する」という意味で to break an impasse もよく使われる。訳例 (3) の stalemate も同義語だが、こちらはチェスからきたもので「王手」(checkmate) になる一手前のまさに行きづまった状態を指す言葉だ。

訳例 (5), (6), (7) はややアプローチを変えて、口語的な表現とも言おうか。to stall は言うまでもなくエンジンのガス欠などに使われる動詞だ。 bog は「泥沼」という名詞からきて動詞形では主として受身の to be/get bogged down という形で「泥沼にはまる」、「停滞する」という意味でよく使われる。訳例 (7) の to go nowhere というのは面白い表現だと思う。「行きどころがない」ということだから「行きづまる」に相当する。人や出来事などいろんなものを主語にしても使えるので思い切って使ってみるとよい。

「行きづまる」表現色々

"at a stalemate"

"at a standstill"

"deadlocked"

"to get bogged down"

"to go nowhere"

"to reach/come to a dead end"

"to reach/come to an impasse"

"to stall"

 

次回の表現

次回の訳せそうで訳せない日本語は、「推移する」です。

「情勢が推移する」などと、政治の世界等で使われることの多いこの言葉。あなたなら、どう訳しますか?

次回、お楽しみに!

 

※本記事は、2012年インターネット講座ブログで連載していたものを再構成しています。

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小松達也

サイマル・アカデミー創設者

1960年より日本生産性本部駐米通訳員を経て、1965年まで米国国務省言語課勤務。帰国後、サイマル・インターナショナルの設立に携わり、1987年より社長、1998年から2017年3月まで顧問を務める。わが国の同時通訳者の草分けとして、G8サミット、APEC、日米財界人会議など数多くの国際会議で活躍。2008年から2015年まで国際教養大学専門職大学院教授。
1980年にサイマル・アカデミーを設立、以来30年以上にわたり通訳者養成の第一人者として教鞭をとり続け、後進の育成に力を注いでいる。

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