同時通訳の第一人者である小松達也が教える、あいまいな日本語をスムーズで自然な英語に訳すコツ。
通訳者、翻訳者を目指す方だけでなく、英語をうまく話したいと思うすべての方の表現力アップに役立ててもらえたら幸いです。
はじめに、小松達也よりみなさまへメッセージです。
はじめに
日本語を英語に通訳するとき、大事なことが3つあります。一つは、S+V+O という英語のシンタックスに従って英語らしいセンテンス作ること、2番目は適切な英語の単語を選ぶこと、そして3番目が、訳しにくい日本語的な慣用表現をうまく英語にすることです。日本語には日本人の発想を反映したすぐには英語にならない表現が沢山あります。それらをうまく英語で表現することは、通訳や翻訳だけでなく、私たちが英語で話そうとするときにも役に立つ大切な技術です。
私は長い通訳者としての経験を通して、政治家や経済人の方々の日本語を数多く通訳してきました。そうした中で、これは面白い、こいつは難しい、というような日本語の表現や例文をできるだけメモして、残してきました。それらをまとめて数年前に本にしました。それが「訳せそうで訳せない日本語」(ジャパンタイムス社)です。その後新しいものを少し加えてソフトバンク新書として出版されましたが、出版社の都合で残念ながら絶版になってしまいました。私にとっては時間をかけて作った未練のある本ですし、英語や通訳に関心のある多くの方々のお役にも立つと思うので、今回サイマル・アカデミーのSIMUL CAFEを活用させていただいて、ふたたび皆さんに見ていただくことといたしました。
第1回は、「当たり前/当然」という表現です。これもごく当たり前の言い方ですが、英語にしようとすると考えなければなりません。直接訳したのでは英語にならないからです。その意味するところを考える必要があります。またこういった表現はいろんな状況に幅広く使われますから英語ではいろんな言い方が可能です。したがって心得としては、まず「その意味するところはなにか」を考えます。そして元の言い方にこだわらず、その意味に近い英語の表現を思い切って使うことです。これはかなり「創造的な(creative)」行為だといえます。
さらに、こうして自分で作るだけでなく、このような本を利用して日本語の慣用句に対応する英語の表現をできるだけ仕入れておくことです。この欄で紹介される表現を5つ覚えるだけでもあなたの英語表現力はかなり進歩するでしょう。
また皆さんの方で、「こういう面白い例がある」、「こういう英語にしたどうだろう」という案があったらぜひお知らせください。みなさんと一緒に新しい例、面白い例を増やしてゆきたいと思います。日本語と英語の違いを考えることは面白いことです。それはまた私たちの英語をより豊かにしてくれます。ぜひよろしくお願いします。
小松達也
※本記事は、2012年インターネット講座ブログで連載していたものを再構成しています。
小松達也
サイマル・アカデミー創設者
1960年より日本生産性本部駐米通訳員を経て、1965年まで米国国務省言語課勤務。帰国後、サイマル・インターナショナルの設立に携わり、1987年より社長、1998年から2017年3月まで顧問を務める。わが国の同時通訳者の草分けとして、G8サミット、APEC、日米財界人会議など数多くの国際会議で活躍。2008年から2015年まで国際教養大学専門職大学院教授。
1980年にサイマル・アカデミーを設立、以来30年以上にわたり通訳者養成の第一人者として教鞭をとり続け、後進の育成に力を注いでいる。