日本語にはそのままでは英語にしにくい慣用的な表現がたくさんあります。しかし通訳者・翻訳者はどんな日本語でも英語にしなければなりません。意味を探し、ぜひ英語の表現力を広げてください!
第3回は「こまめに」です。これからの季節に使える表現をぜひ考えてみましょう!
第3回 こまめに
第1、2回のTPPに関する話題から一転して、今度は梅雨入りから夏へという季節にともなう表現を拾ってみました。「こまめに水分を補給する」です。今年(2014年)は5月の末から急に暑くなり、天気予報でも「熱中症の予防に努めましょう」というアナウンスがしばしば聞かれました。NHK・OBの私の友人は「最近の天気予報はお節介すぎる」とこぼしていますが、本格的暑さに向かう中適切なアドバイスと言えましょう。
このアナウンスと必ずと言っていいほど一緒に述べられるのが「こまめに水分を補給するなどして」です。しかもいつも同じ言い方で、副詞には必ず「こまめに」が使われます。英語が表現の多様性を好むのに対して、日本語には同じ表現を重ねて使う傾向があります。意味は分かるような気がしますが、厳密にいうとはっきりしません。こういう時には、英語では何と言ったらいいかと考えるのが一番です。"often" なのか "frequently" がいいのか "continuously" なのか?
辞書を見ると「まめに」の「まめ」は漢字では「忠実」と書くようです。「まじめ」が訛ったのでしょうか。よく分かりません。意味としては ① まじめ、② 労苦をいとわないこと、③ 体の丈夫なこと とあります。「こまめに」の「こ」は、「こぎれい」、「こばしり」など数量・度合の小さいことを示す「小」です。あまりがぶがぶ飲むのではなく、少しづつ飲むということでしょうか。そうすると "little by little" もありかな?
「こまめに水分を補給する」、さあ、あなたならどう英語に訳しますか?
第2回「すり合わせる」の訳例
前回の「すり合わせる」の英訳の私案です。「(フロマン、甘利の両代表が1時間にわたって会談し)会合の進め方を綿密にすり合わせた」という文章でした。
(they) carefully exchanged views on how to carry out the conference
というのはいかがでしょうか。"to exchange views on" の代わりに "to compare notes on" というのもいいと思います。"to discuss"、"to examine" のような一つの動詞でもいいかと思いますが少しニュアンスが強すぎるように思います。"to exchange views on" と "to compare notes on" がお勧めです。副詞(綿密に)は "carefully" でしょう。
※本記事は、2014年インターネット講座ブログで連載していたものを再構成しています。
小松達也
サイマル・アカデミー創設者
1960年より日本生産性本部駐米通訳員を経て、1965年まで米国国務省言語課勤務。帰国後、サイマル・インターナショナルの設立に携わり、1987年より社長、1998年から2017年3月まで顧問を務める。わが国の同時通訳者の草分けとして、G8サミット、APEC、日米財界人会議など数多くの国際会議で活躍。2008年から2015年まで国際教養大学専門職大学院教授。
1980年にサイマル・アカデミーを設立、以来30年以上にわたり通訳者養成の第一人者として教鞭をとり続け、後進の育成に力を注いでいる。