訳者メッセージ
藤崎香里さん
気候カジノ(日経BP社)
さらなる経済成長と地球温暖化の防止は両立できる。米国経済学の権威W.ノードハウスによる進まない温暖化対策への緊急提言。
藤崎さんからのメッセージ
『気候カジノ』は、気候変動問題を経済学者の視点から述べた本です。なぜ人は、自動車や電化製品を購入する際、エネルギー効率に過小投資するのか。コップ1杯のミルクでさえ温暖化に寄与しているという事実を、わたしたちはどう受け止めるべきか。こうした問題提起を通じて、著者は、気候変動がわたしたちの日常生活と深く結びついた身近な問題であることを教えてくれます。
翻訳者として感じたこの本の最大の魅力のひとつは、あらゆる可能性を排除しないバランスのよさです。気候変動問題と言えば、地球は温暖化しているという「主流科学」と、それはでっちあげだとする「懐疑派」が激しい論争を繰り広げる分野ですが、著者は前者を支持しつつも、「経験科学の世界では、絶対的な確信に達することはない」として、懐疑派の主張についても紹介しています。同様に、気候変動による影響、温暖化抑制に向けた取り組み、政策に関しても、さまざまな可能性が提示・考察され、わたしたち自身に考え、判断する余地を与えてくれています。
気候変動問題に関して幅広い知識を得たいという人や、偏りのない議論を通じて自分なりの結論を模索したいという人にはぴったりの一冊だと思いますので、ぜひ手に取ってみてください。
藤崎香里さん
プロフィール
アメリカン大学国際関係学部卒。2009年4月にサイマル・アカデミーに入学。翻訳者養成コース総合翻訳(現:出版翻訳)を受講し、2014年春に修了。