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第30回「突出する」

今回の「訳せそうで訳せない日本語」は、「突出する」です。

日本語での使用例

(1) 日本とアメリカが突出してはまずい。

(2) 通訳者として、彼女は突出した存在だった。

(3) 中身よりも自分がとにかく突出することの方が大事だと思っているのだと思います。

(4) 日本の対米黒字額は先進国中突出している。

(5) その地域の失業率は米国全体から見て突出していた。

(6) これらの乗務時間は、世界的に見ても決して突出して多いというものではないと聞いている。

(7) わが国の基準が国際的に突出しているわけではない。

訳例

(1) It is not good if Japan and the U.S. stick out.

(2) As an interpreter, she stood out from all the others.

(3) He thinks it more important to stand out rather than to have substance.

(4) Japan's trade surplus with the U.S. far exceeds that of all other developed countries.

(5) The jobless rate of the area outstripped the rest of the U.S.

(6) We were told that these flight hours are not particularly high compared with other countries in the world.

(7) The standards of our country are not conspicuously different from those of other countries.

 

「突出する」は第一義的には「他よりも抜きん出て目立つこと」だから、英語としてまず頭に浮かぶのは to stand out あるいは to stick out という複合動詞だ。この2つは「目立つ」という意味でもある。用例 (1) は国連などの国際舞台でアメリカと日本がいつも共同行動をとっているように見られてはまずい、という趣旨の発言である。用例 (2) は通訳者としての力量が特に優れていたという意味だろう。ただ「目立つ」だけではない。to stand out, to stick out は、その後に from や among といった前置詞を伴うことが多い。

用例 (3) はテレビ時代に同僚だった弁護士で参院議員の丸山和也氏が日本維新の会の橋下徹代表について語った言葉だ。この場合は用例 (2) と違ってなにかに優れているのではなく、ただ「目立つ」だけだろう。「目立ちたがり屋」だというわけだ。形容詞を使うとするとconspicuous が非常に近い(用例 (7) では、副詞形 conspicuously)。Conspicuous は英英辞典を見ると、easily noticed, attracting special attention と出ている。outstanding, prominent も同じような意味の語だが、この2つは「傑出した」、「優れた」といい意味に使われることが多い。ただ「目立つ」だけではない。

もうひとつのアプローチとしては、「他より優れている」「他を越える」「他とは違う」という意味を英語で表わしてみることだ。用例 (4) では to [far] exceed [others] (他をはるかに越える)という動詞、用例 (5) では to exceed の同義語の to outstrip を使ってみた。to surpass でも同じだ。

用例 (6), (7) では、particularly high compared with…, different from… というより平明な表現でパラフレーズしている。このように、その語をそのまま英語で置き換えるというやり方に加えて、その意味するところを無理なく英語で表現しようというアプローチも大切である。

「突出する」表現色々

"conspicuous"

"to exceed"

"outstanding"

"to outstrip"

"prominent"

"to protrude"

"to stand out"

"to stick out"

 

次回の表現

次回の訳せそうで訳せない日本語は、「おかしい」です。

 

※本記事は、2012年インターネット講座ブログで連載していたものを再構成しています。

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小松達也

サイマル・アカデミー創設者

1960年より日本生産性本部駐米通訳員を経て、1965年まで米国国務省言語課勤務。帰国後、サイマル・インターナショナルの設立に携わり、1987年より社長、1998年から2017年3月まで顧問を務める。わが国の同時通訳者の草分けとして、G8サミット、APEC、日米財界人会議など数多くの国際会議で活躍。2008年から2015年まで国際教養大学専門職大学院教授。
1980年にサイマル・アカデミーを設立、以来30年以上にわたり通訳者養成の第一人者として教鞭をとり続け、後進の育成に力を注いでいる。

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