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第27回「迎合する」

今回の「訳せそうで訳せない日本語」は、「迎合する」です。

さてこの言葉、あなたなら英語でどのように表現しますか?

日本語での使用例

(1) 政治家はとかく世論に迎合する。

(2) これからは、大衆に迎合する、政治停滞の時代が続くだろう。

(3) あの映画は人間の下劣な本能に迎合している。

(4) あの雑誌は大衆の趣味に迎合している。

訳例

(1) Politicians tend to go with public opinion.

(2) I believe we are going to have a period of political stagnation where politicians try to accommodate the wishes of the public.

(3) That movie plays up to men's lowest instincts.

(4) That magazine caters to popular tastes.

 

日本の政治を熟知する読売新聞主筆渡邊恒雄氏の「反ポピュリズム論」を読んでいると、見出しから「日本をむしばむ大衆迎合政治」、「大衆迎合を煽るメディア」と「迎合」という言葉が頻出する。「ポピュリズム」の日本語表現は「大衆迎合」が当たっているようだ。「迎合する」という動詞形もこのような政治的なコンテキストで使われることが多い。
”The way to succeed in politics is to find a crowd that is going some place and get in front of it.” という引用句があるように、政治では自らビジョンを示してリードするよりも、多数の人について行く例の方が圧倒的に多いからだろう。

用例 (1) は上記引用句と同じ趣旨である。ここで使った go with という複合動詞はこのようなネガティブな意味だけでなく、「賛成する」、「同調する」、「似合う」といったいい意味もある。用例 (2) はやや古い用例で、竹下、梶山、小渕などといった個性のある有力政治家が政界を去った後の政治状況について、ある政治評論家が行ったコメントである。ここでは accommodate を使ってみたが意味的には accommodate the wishes of ~ までが対応すると考えた方がいい。

用例 (3), (4) は政治以外の事柄を対象としたより一般的な用法である。こうしてみるとこちらの方が「低いものに合わせる」というネガティブなニュアンスがよりはっきりしているようだ。これと同じような意味を持つ日本語の動詞として、「こびる」、「へつらう」、「おもねる」などがある。これらは通訳をしていてもしばしば出てくる表現だが、いざ英語に訳そうとするとなかなか難しい。いわば英会話のレベルよりは一段と高いボキャブラリーなのだ。英語の表現力を高めるためにも、訳例 (3)、(4) で示すような play up to ~, cater to ~ のような表現を覚えておかれることをお勧めしたい。他に、curry favor with ~, pander to (on) ~ などといった言い方もある。

ところで、同じような意味の日本語の比喩表現に「ゴマをする」というのがある。どうして「へつらう」ことを「ゴマをする」というのだろう。何か由来があるに違いないが、これに対応する英語の表現に apple-polish というのがあるのは面白い。英語ではゴマがリンゴになるのだ。比喩は文化を反映するいい例だ。Apple-polish はそのまま動詞として使われるが、polish the apple という形でも使う。”Some people polish the apple to please the boss.”  というように。そういう人を an apple-polisher という。

「迎合する」表現色々

"to accommodate"

"to apple-polish"

"to butter up"

"to cater to"

"to court"

"to curry favor with"

"to go with"

"to pander to (on)"

"to play up to"

"to suck up to"

"to toady (up to)"

 

次回の表現

次回の訳せそうで訳せない日本語は、「タイミング」です。

元々は英語の表現が日本語になった例で、ここから更に英語に訳す場合、どの様なことに気をつけていけばよいのでしょうか?

 

※本記事は、2012年インターネット講座ブログで連載していたものを再構成しています。

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小松達也

サイマル・アカデミー創設者

1960年より日本生産性本部駐米通訳員を経て、1965年まで米国国務省言語課勤務。帰国後、サイマル・インターナショナルの設立に携わり、1987年より社長、1998年から2017年3月まで顧問を務める。わが国の同時通訳者の草分けとして、G8サミット、APEC、日米財界人会議など数多くの国際会議で活躍。2008年から2015年まで国際教養大学専門職大学院教授。
1980年にサイマル・アカデミーを設立、以来30年以上にわたり通訳者養成の第一人者として教鞭をとり続け、後進の育成に力を注いでいる。

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